予感 「画学生の夢」  Ⅱ


 

seiza

 

それにしても神話に合わせて星座を作ったギリシャ人の発想は素晴らしいとしか言いようがない。

英雄オリオンは蠍に刺され死んでしまった。

だから、東の空から蠍が現れると同時にオリオンが逃げるように西の空に沈む、

というように夜空は絵巻物なのだ。

 

宇宙のことをもっと知りたい。

地球の存在も不思議だ。

しかし、地球が一つ存在するということは二つは在るということにはならないだろうか。

いや、三つ四つと在るのではないだろうか。

 

そんなことを考えながら、甲板に寝転がっていた僕は再び睡魔に襲われて眠ってしまった。

帆に当たる風の音と船の波を切る音で目が覚めた。

側に教授が近づいて来られた。

そして、4日程眠ってしまったことを知らされた。

また、昼頃には目的地である島に着く予定だと言われた。

 

「僕は病気ではありません。看病する為に行くのです。」と答えた。

教授は優しく笑みを浮かべながら操舵室の方に行かれた。

太陽が30度程の高さなので、朝の8時頃だろうか。

空腹を満たす為、食堂に行った。

しかし、まだ誰もいなかった。

朝食は何時ものようにオムレツとパン、バター、ジャム、そして、カフェオレ。

空腹の僕は羊のシチューとカマンベールのチーズ、そして、ワインを追加して頼んだ。

船内には人気はなく、いくら経っても食堂に人が来る気配はなかった。

教授が食堂に入って来られたので「皆は何処ですか」と訊ねると

「ある者はインド洋の島に、亦、ある者はグアム島あたりの島にそれぞれ下船した。」と、話された。

 

食事を済ませた僕は、再び甲板に戻ることにした。

戻ってみると、船首方向に島影が見えていた。

その島へ近づくにつれ港らしき物はなく、船を停める桟橋もないようだった。

島は波打ち際からすぐに崖になっていた。

上の方に山はなく平らだった。

 

ガラガラと錨が降ろされる音がした。

島までは300メートル程離れていた。

そして、次にボートが下ろされた。

「そのボートに乗って行きなさい。

この船は陽が沈むと同時に出航するので看病は早目に済ませて戻って来なさい。

もしも遅れるようなことがあれば島に取り残されるだろう。

この島に船は何時戻って来るか解らないから十分気を付けるように。」と、教授が言われた。

 

ボートに乗り移った僕は、力いっぱい島に向かってボートを漕いだ。

思ったより速く進んだ。

島までの距離もあっという間だった。

 

舟の甲板から、こちらに手を振りながら船内に消えて行く教授の姿が見えた。

ボートを岩に結びつけてから僕は島に降りた。

崖を見ると上の方に向かってジグザグに、人が登ったと思われる狭くて急な石段があった。

パリで描いている「海の神々」のことを考えながら石段を登って行った。

しばらくして崖の上に着いた。

200メートル程登るのに30分と掛からなかったに違いない。

 

島の上は案の定、山は無く平地だった。

背の高くない芝生のような雑草が一面に広がっていた。

細い小道に沿って、所々、大理石のような白い石があるだけだった。

その一本道はゆるやかに白い平屋の建物まで続いていた。

その病院のような建物まで500メートルはあると思った。

 

目を凝らして良く見ると、白い服を着た医者らしき人が手を振っているのが見えた。

静寂の中、僕は歩き始めた。

陽を背にしているのだろう、自分の影を追いかけるように歩いた。

影の長さが僕の身長の約2倍だから午後3時前だろうと思ったりしながら歩いた。

 

影を見て、ふと鏡のことを考えた。

右手は右に写っているが鏡の中の人物は左手なのだ。

そんなことを考えながら歩いていると、ふと、人の声がしたような気がした。

顔を上げ辺りを見回したが誰もいなかった。

気のせいだと思い、また下を向いて歩いた。

しかし、確かに人の声がしたのだ。

歩きながら目を上げたが、やはり人影はなく、

あるのは小道の両脇に沿って大理石のような白い石が並んであるだけであった。

 

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Masuya KYOMEN

 

 

 

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