予感 「画学生の夢」 Ⅳ
「船が待っているのだろう早く帰りなさい。それとも此処に残るのか。」医者が言った。
それに答えず僕は外に飛び出した。
外はまだ明るかった。
僕は一目散に走り出した。
小道に沿って第3の広場から運び出された石達が「間に合うかな。」「此処にいろ。結構楽な所だ。」
とか僕に呼びかけていた。
走っているうちに辺りは背の低い雑草だった筈が、だんだんと背の高い草むらに変わっていった。
僕は立ち止まった。
来た道ではないと気付いた。
「当たり前だ。病院の入り口と出口は真反対ではないか。」と独り言を言いながら元来た道を引き返した。
しかし、病院は無かった。
何処で間違えたのだろうか。
右往左往するばかりであった。
「落ち着け、落ち着け。」と自分に言い聞かせた。
兎に角、明るい空の方が西だからその方向を右に見て行けば、海の見える場所に着けると思い走った。
何時の間にか林になっていた。
僕は焦った。
しかし、焦れば焦る程辺りは暗さを増していった。
走った。僕は走った。
木々の間から見える空はまだ青かった。
ようやく林を抜け海が見える場所に着いた。
嬉しかった。
「海だ、海だ」と僕は叫んだ。
西の方を見ると太陽が沈もうとしていた。
赤い線のような太陽が一瞬、緑色に見えた。
その時、下の方からドラの音が聞こえてきた。
と、同時に僕の足が音をたてて石になっていった。
そして僕は目を覚ました。
長い夢だった。
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- 完 -
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